音楽の力
石井智恵美
近頃、気に入っているテーマ・ソングがあります。武満徹作詞・作曲の「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」です。
「きのうのかなしみ 今日のなみだ
明日ハ晴レカナ、曇リカナ
きのうのくるしみ 今日のなやみ
明日ハ晴レカナ、曇リカナ」
さっと文字だけ読めば、なんの変哲もないなんともシンプルな歌詞です。しかし、これに音楽がつくと何とも言えない人生の応援歌に聞こえてくるから不思議です。
知り合いの合唱団のCDをプレゼントされ、その中に入っていたのですが、聞いたとたんに心を掴まれました。明るく優しい透明感のあるメロデイーですが、サビの部分で何とも言えない哀しみや苦悩が現れる、そして最後のしめで明るい希望に包まれるのです。音楽でしか伝えられない感情が確かにあるなーと思いました。歌ってみると、「昨日の悲しみ」が思い出され「涙を流した自分」が蘇ってくるのです。また「昨日の苦しみ」が思い出され、「今日の悩み」の呻きが蘇るのです。人間には逃れようもなく悲しみも苦しみも襲ってくる。だけどやはり明日は来るのです。だから、悲しみのただ中で苦しみのただ中で「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」と希望することができるのです。これは自分の悲しみから逃げない、苦しみから逃げない、真正面からそれと向き合い、受け止めて呻いている誠実な人間の姿、そこから現れた詞だと直感しました。この曲には人生の悲しみや苦しみから逃げ出さず、しかし飲み込まれず、そのただ中で明日に希望を託す、不思議な楽天主義に満ちています。人生を肯定し、悲しみや苦しみのただ中で生き抜こうとするまっすぐな人間の内面が、吐露されている曲だと思うのです。悲しみや苦しみの中にある人が希望することなどできるのでしょしょうか?「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」とカタカナで書かれたこの言葉は、自分の内面から湧き出す言葉であるとともに、絶望の中に沈み込んで立ち上がれないでいる人に、語りかけている神の言葉とも読めます。どんなに絶望していても、かならず明日は来る、その人間を越えた大きなものからの語り掛けとも読める、と思いました、こんなにシンプルで力強く暖かく根底から人を慰めてくれる音楽を書いた武満徹はやっぱり天才だと思いました。
「明日のことは明日が思い煩う」と群衆に語りかけたイエスの楽天的な言葉を思いだしました。また、望みえないものを望むのが信仰である、というパウロの言葉も。武満徹の音楽も、そしてイエスやパウロの言葉も、人生の悲しみや苦しみに閉ざされた心に寄り添い、そこに届くものです。そういう言葉を語り伝える人になりたいと思います。牧師にリクエストくだされば喜んで歌いますよ。